Production Notes
プロダクションノート

構想30年の念願の企画を
待望の映画化

北野武監督の構想30年におよぶ念願の企画を映画化した『首』。本作は2021年4月19日(月)から9月23日(木)まで東京近郊や山形の庄内オープンセットなどで撮影されたが、『ソナチネ』(93)以来2度目の北野組の参加となったプロデューサーの福島聡司(以下:福島P)は当時のことを感慨深げに振り返る。「今回は監督が原作も書かれているから、僕が参加したときにはちゃんと準備稿があって。それでホッとしたのを覚えています。28ページぐらいのプロットだけで、台本がなかった『ソナチネ』のときと違い、ロケハンやキャスティングなどの準備がしやすかったですからね。」
北野監督と製作のKADOKAWAとの間で複数の企画案から決まり、ようやく日の目を見た本作とあって、撮影前には北野監督から熱い想いも聞いたという。「『これまでのテレビや映画がやるような王道の時代劇で描かれるよりも、実際は人間関係がもっとドロドロしていたんじゃないのか? という自分の視点で裏から見た戦国時代を描きたいんだ』っていうことはずっと言われてました。誰が死んで、誰が生き残るのか? 台本の稿を重ね、決定稿になるまでにそれが何度も入れ替わったのも印象的でしたね。」

北野武作品ならではの
豪華&異色のキャスト

原作小説も執筆している北野監督は、その段階から明智光秀を西島秀俊に、織田信長を加瀬亮に演じてもらいたいと思っていたようだが、羽柴秀吉のキャスティングだけは悩んでいて、当初は「俺はやらねえ。時代劇だし、体力もないから、今回は監督だけでいいよ。」って言っていたという。「それが、打ち合わせを重ねるうちに、『やっぱり、俺が出ないとダメだな』って言い出して(笑)」と福島P。「キャストの候補を出していく中で、自分がいちばん秀吉にハマり役だと思ったんでしょうね。『監督が秀吉で、加瀬さんが信長をやったら年齢的におかしなことになりますけど』って言っても、『いいんだよ、そんなの』って笑っていました。」
監督が配役を即決し、オファーした人の多くが快諾してくれる北野組のキャスティングは他作品に比べると苦労が少ないと福島Pは語る。「アマレス兄弟の起用なんてすごく勇気のいることだと思いますけど、最初から『(曽呂利新左衛門〈木村祐一〉の手下の)丁次と半次はあのふたりで、レスリングをやらせるんだ』と言っていて。監督は、普通の人のイメージを覆すようなキャスティングが上手いんですよ。徳川家康役の小林薫さんは逃げるときの姿勢の面白さでオファーしたところもあるんですが、意外とそれが役に馴染んでいたし、“百姓の役なんて絶対にやらないだろうな”って思う、中村獅童さんに難波茂助をお願いするんですから。」
北野監督の大ファンと公言する中村獅童は北野組の常連でもある大森南朋を通じて本作に参加したが、「茂助を獅童くんに頼んでよかったよ」と北野監督も絶賛する。「侍になりたい百姓の茂助は物語を引っ張っていく、ある意味進行役。ただ、周りのキャラが濃いからどうなるかと不安な部分もあったんだけど、獅童くんはあのアクの強さで最後までガンガン行ってくれた。」

“狂気”と
“バイオレンス”の演出

織田信長の“狂気”と北野監督ならではの血みどろの残虐シーンが映画全体を支配する本作だが、観る者も凍りつくあの“狂気”とバイオレンスはどのように創造されたのか? 撮影はどんな空気の中で行われたのか? 誰もが知りたい北野監督のその演出について、福島Pは「いや、台本がすでに過激でしたからね。それに、監督は『尾張弁でガンガンまくしたててくれ!』って最初から言っていたので、加瀬さんもストッパーをかけずに思いっきりやれたと思います。」と述懐する。
信長が荒木村重の口の中に刀を突っ込み、切先をねじるところも北野監督から「こんな風にねじるんだよ!」という具体的な指示が飛んだと言うが、大変だったのは村重を演じた遠藤憲一だ。「血のりを口にふくんだ状態で模造刀を入れられ、ねじられるから、カットがかかる度にゴホゴホやっていて。監督はそれをモニターで見ながらケラケラ笑っていましたけどね(笑)」

絶妙なアドリブが
作り上げる爆笑シーン

張り詰めた空気を緩和するように随所に挿入された“笑い”も本作のいいアクセントになっているが、「笑わせようとは思っていなかったけれど、カンヌではみんな笑っていたね。」と北野監督はうそぶく。だが、福島Pは「キャストのみなさんは、こうすれば監督が喜んでくれるということを演じる前から心得ていて。そのシーンで自分が何をしたらいいのかを考えてきていますよ」と証言する。「でも、いきなりやったアドリブに周りがどう反応するのかをいちばん楽しんでいたのは監督ですよ。しかも、普通の監督だったらまず使わない、役者が笑いをこらえながら適当にリアクションしている画も使っちゃう(笑)。(黒田官兵衛役の)浅野忠信さんなんて思いっきり笑ってますから、それが監督の演出と言えば、演出なのかもしれない。」

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