
——山下監督にとって、初タッグとなる綾野剛さん・齋藤潤さんとのコラボレーションはいかがでしたか?
今回はリハーサルの時間を多く設けられたので、綾野剛くん・齋藤潤くんと3人で「いま良かったよね、それはなぜだろう」と話し合い、シーンを作っていきました。ちょっと合宿的な雰囲気でしたね。ふたりは関西弁や歌の練習もあって大変だったかと思いますが、同じ時間を過ごせたお陰で関係性が自然と出来上がっていきました。
本編の中で重要なカラオケルームのシーンは、どうしても空間が狭いので画的に動きを作りづらく、選択肢があまりありません。だからこそ、綾野くんと齋藤くんの間に生まれる空気感が重要になってきます。そういった意味でも、リハーサルの経験が生きてきたと感じます。
綾野くんと話していたのは、「『カラオケ行こ!』は聡実くんの映画だから、齋藤潤を立てていこう」ということです。リハーサル中も綾野くんがどんどん引っ張っていってくれて、齋藤くんをプロデュースしてくれた感覚がありました。綾野くんは自分の役に集中してのめり込むタイプに見えて、実は作品全体を俯瞰して、客観視している。一緒に作品を作っていくうえで、すごくやりやすかったです。かと思えば、本番でいきなりアドリブをかますから面白い(笑)。


——ヤクザを演じたキャストの皆さんと、選曲の組み合わせも絶妙でした。
プロデューサーと話しながら考えていきましたが、銀次役の吉永秀平さんが歌う「月のあかり」(桑名正博)だけは、決め打ちです。吉永さんは学生時代からの付き合いなのですが、昔カラオケに行ったときに彼が「月のあかり」を披露されて、桑名さんに寄せた歌い方に僕は大爆笑してしまって(笑)。キャスティング段階でそのことを思い出して、ぜひ吉永さんに!とお願いしました。本人からは「よく覚えてたな」と言われました(笑)。


——映画オリジナルの要素でいうと、「映画を観る部」や合唱部の描写等々ありますが、ヤクザや町、あるいは映画館といった失われゆく/薄れゆくものの切なさが印象的です。
さすが野木亜紀子さんですよね。町がなくなっていき、古いヤクザもいなくなっていく切なさや寂しさ――屋上で始まり屋上で終わるような構造も含めて、裏テーマの盛り込み方が上手いな、と思います。僕自身はそこまで狙っていませんでしたが、編集でつないでみたらそうした味わいが出てきて、改めて野木さんの力を感じました。
とはいえ、「みなみ銀座」というエリアをどう具現化していくかはロケハン含めてすごく大変でした。大阪のどこかにあるであろう、いわゆる「入っちゃいけない」と言われるような場所を探し求めましたね。本当に入っちゃいけないエリアでは撮影が難しいので(笑)、甲府の一角をそういった風に仕立てていきました。ちなみにカラオケ店のシーンは千葉で撮影しています。

——『カラオケ行こ!』の中で、山下監督が特に悩んだ・こだわった部分はどこでしょう。
一番悩んだのは、最後に聡実くんが歌う「紅」をどうするかです。原作だと声がかすれているんだろうなというのが伝わってくるけど、映画では実際に歌わないといけないし、その場にいるヤクザたちを少なからず感動させないといけません。齋藤くんにはずっとレッスンを受けてもらいましたが、「紅」はうまく歌えば必ずしも響くというものでもない。歌詞を聴かせるというより、「紅だー!」を含めた“叫び”で衝動を出していく方が良いかと思い、いかに聡実くんが真剣に歌うかにかかっているとは感じていました。
映画の中でも一番のピークですし、「齋藤くんが出し切るしかない」をテーマに撮影していた気がします。そういった意味では、自分が導くというより彼を信じて、委ねました。
(聞き手:SYO)